TOP > 今月のコラム一覧 > 118

著作権の共有と合意

 著作権についても、他の権利と同様に「共有」されることがあります。
 典型的なケースが、共同著作者同士の場合です。
 AとBが共同で書籍を執筆しているような場合ですね。

1 「共有」については、民法に規定がありますが、共有著作権についてはその特性に鑑みて、特別の規定が置かれています(共同著作物の著作者人格権について64条、共有著作権の行使について65条)。

2 共有著作権の行使にあたっては、共有者全員の合意によることが必要とされています(65条2項)。著作者人格権についても同様です(64条1項)。

 でも、1人でも権利行使について同意しない人がいると、著作権を行使できないというのも実際困ってしまいますよね。
 そこで、共有著作権の行使については、「正当な理由」がない限り、合意の成立を妨げることができないとされています(65条3項)。

 もし、Bが正当でない理由で著作権の共同行使に合意しない場合には、Aは、共同著作権のこのような行使に合意せよ、という裁判所の判決を求めて提訴することができます。

3 共有著作権者の間で裁判をするというのは穏やかではありませんね。できるだけ、協議で解決したいところではありますが、話がこじれて実際に裁判になってしまった例があります。
  東京地判平成12年9月28日(「日本経済の50年」事件)です。

 この事案は、「日本経済の50年」という書籍の共同著作者で、著作権を共有しているAとBがおり、Bは書籍の増刷や外国語への翻訳(=著作権の行使)を希望したけれども、Aがこれを拒んだという事案です。Aの拒否(不同意)に「正当な理由」があるかどうかが争点となりました。

 裁判所は、65条3項の「正当な理由」について「諸般の事情を比較衡量した上で、共有者の一方において権利行使ができないという不利益を被ることを考慮してもなお、共有著作権の行使を望まない他方の共有者の利益を保護すべき事情が存在すると認められるような場合」であるとしました。

 そして、当該事案においては、①書籍が経済学の書籍であり、社会情勢の変化によって内容が陳腐化することを免れないこと、②Bが経済学者として、書籍の構成を見直す必要を感じていること、そのため現在の書籍を増刷、翻訳することを望んでいないこと、③書籍の原稿の分量についてBのほうが相当程度多く、Bの貢献度がAを上回っていること、④BがAに対する不信感を抱くに至った経緯、⑤当該書籍を増刷、翻訳しないとAの生活が経済的に脅かされるような事情等は証拠上認められないこと、などを挙げて、Bの不同意には「正当な理由」があると判断しました。


4 事例判断ではありますが、65条3項の「正当な理由」を考える上で、参考になる裁判例といえます。「貢献度」が1つの考慮要素になっているのは、面白いですね。

(一由)