TOP > 今月のコラム一覧 > 128

パブリシティ権とは?

Q 当社では、新商品のパッケージに、我が郷土出身の大相撲で活躍する力士の写真を掲載して販売したいとおもい、準備しています。というのは当社の社長は大の好角家(相撲ファン)で、このたび大関に昇進した郷土出身の力士を応援する意味でも、新商品のパッケージにその力士の写真をぜひ載せたいと張り切っているのです。社長からは、「使用する力士の写真は、社長が撮影したものだから著作権は社長にあるはずだし、応援するために載せるのだから、力士の写真を載せるのに許可は要らないだろう」と言われていますが、本当に大丈夫でしょうか?

A その力士のパブリシティ権を侵害する可能性が高いため、力士の許可を得ずに商品に写真を使用することは避けるべきです。

(1)パブリシティ権

 設問のとおり、社長が力士の写真を撮影した場合には、仮にその写真が著作物であるとした場合、写真の著作権者は撮影者である社長ですから、その写真を使っても著作権侵害にはなりません。
 しかし、被写体の人物が著名人である場合には、著作権とは別の権利である「パブリシティ権」についての検討が必要です。

 パブリシティ権は、著作権と著作権法のような明文の法律に基づいて認められる権利ではなく、判例上認められている権利です。
 最判平成24年2月2日(ピンクレディー事件)は、以下の通り判示して正面からパブリシティ権を認め、その侵害が違法となる場合があることを認めました。


 人の氏名、肖像等(以下、併せて「肖像等」という。)は、個人の人格 の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利 用されない権利を有すると解される。・・・そして、肖像等は、商品の販 売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に 利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は、肖像等それ自体の商業的価 値に基づくものであるから、上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するもの ということができる。他方、肖像等に顧客吸引力を有する者は、社会の耳目を集め るなどして、その肖像等を時事報道、論説、創作物等に使用されることもあるので あって、その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるというべきであ る。そうすると、肖像等を無断で使用する行為は、①肖像等それ自体を独立して鑑 賞の対象となる商品等として使用し、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品 等に付し、③肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客 吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとし て、不法行為法上違法となると解するのが相当である。


(2)パブリシティ権の侵害が違法となる場合

 上記(1)の最高裁判例からすると、パブリシティ権は「もっぱら肖像等の有する顧客誘引力の利用を目的とする場合」に違法となって、不法行為責任が成立することとなります。
 これは、例えば、有名人の写真を報道機関が、報道目的で新聞や雑誌に掲載したような場合にまでパブリシティ権の侵害を認めるわけにはいかないため、目的を一定の範囲に絞ったものといえます。

 本設問のように、新商品のパッケージに著名な力士の写真を使ったとした場合、その目的はどのように解されるでしょうか?
 社長の主観的な目的は「力士を応援するため」であったとしても、客観的には、著名な力士の写真を商品のパッケージに使用することで、その顧客誘引力を利用して売り上げをアップさせようという目的があると見るのが通常でしょう。
 目的といっても、あくまで客観的に判断されることとなります。

 この事案では、「もっぱら肖像等の有する顧客誘引力の利用を目的とする場合」と判断される可能性が高く、力士から大目玉を食うだけでなく最悪、損害賠償責任(差止め請求もあり得ます)を追及されかねません。
 写真を使いたいのであればきちんと力士にお願いして許諾を得てからにすべきといえます。

(一由)