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身寄りのない入居者が介護施設で亡くなった場合の対応 ― 介護事業者が押さえておくべき法的ポイント ―
高齢者介護施設では、近年「身寄りのない入居者(いわゆる無縁高齢者)」が増加しています。こうした入居者が施設内で死亡した場合、誰に連絡すべきか、遺体や遺留品をどう扱うべきか、費用は誰が負担するのかといった問題に、現場が直面することになります。
本コラムでは、介護事業者として最低限押さえておくべき法的な問題点と、実務上の注意点を解説します。
1 まず行うべき初動対応
入居者が死亡した場合、身寄りの有無にかかわらず、以下の対応が基本となります。
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医師による死亡確認(施設内嘱託医、救急要請等)
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死亡診断書(または死体検案書)の取得
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警察への連絡(不審死や孤独死の状況による)
「身寄りがないから警察に連絡しなくてよい」わけではありません。
死亡状況によっては、通常の病死であっても警察対応が必要となる場合があります。
2 「身寄りがない」とは誰がいない状態か
実務上問題となるのは、次のようなケースです。
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親族が全くいない、または所在不明
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親族がいるが、関与を拒否している
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成年後見人等も選任されていない
この場合、介護施設が当然に「遺族の代わり」になるわけではありません。
施設はあくまで契約に基づき介護サービスを提供する立場であり、死亡後の一切を引き受ける義務はありません。
3 遺体の引き取り・火葬は誰が行うのか
原則として、遺体の引き取りや葬儀は相続人が行います。しかし相続人がいない、または対応しない場合には、
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市町村長が「行旅死亡人」として対応
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墓地、埋葬等に関する法律に基づく火葬・埋葬
が行われることになります。
介護施設が独自判断で火葬等を手配することは、原則として避けるべきです。
必ず市町村(福祉担当・生活困窮者担当等)と連携してください。
4 遺留品・所持品の取り扱いの注意点
身寄りのない入居者が亡くなった場合、施設に残されることが多いのが、
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衣類、日用品
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預り金、通帳、印鑑
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貴重品
これらは通常「相続財産」に該当します。
したがって勝手に処分することはしてはいけません。
施設が勝手に処分してはいけない理由
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相続人が後日現れる可能性
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不法行為による損害賠償請求のリスク
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業務上横領等を疑われるおそれ
実務上は、
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目録を作成
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一定期間、厳重に保管
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速やかに市町村や弁護士に相談
といった対応が望まれます。
5 未払い利用料・立替費用はどうなるか
死亡時点で未払いの利用料がある場合、それは相続債務となります。
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相続人がいれば請求可能
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相続人不存在の場合、回収は困難
また、施設がやむを得ず立て替えた費用(例:一時的な遺体搬送費)についても、原則として施設の自己負担になるリスクがあります。
この点からも、事前の契約設計が極めて重要です。
6 生前に備えておくべき契約上の工夫
介護事業者としては、次のような備えが有効です。
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身元保証人に関する条項の明確化
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死亡時の連絡先・対応範囲の限定
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遺留品の保管・処分ルールの明示
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成年後見制度・死後事務委任契約の活用案内
特に、「施設が行うこと」「行わないこと」を契約書や重要事項説明書で明確にしておくことが、紛争予防につながります。
7 まとめ:介護事業者が一人で抱え込まないこと
身寄りのない入居者の死亡対応は、介護事業者だけで完結させる問題ではありません。
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市町村
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医療機関
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家庭裁判所
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弁護士
と連携し、「善意でやり過ぎない」ことが、結果的に事業者を守ります。
対応に迷う場合は、早めに専門家へ相談することを強くおすすめします。
お困りの場合には、弁護士法人長野第一法律事務所にご相談ください。