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宗教法人の境内地が「公有地」であった場合の対応

1 はじめに

寺院や神社の境内地は、長年にわたり使われているので、当然に宗教法人の所有地であると認識されていることが少なくありません。

しかし、なにかのきっかけで、登記や公図を調査してみると、境内地の一部または全部が国や地方公共団体の「公有地」であったというケースが、実務上、決して珍しくないのが実情です。

本コラムでは、宗教法人の境内地が公有地であった場合に、どのような法的問題が生じ、どのように対応すべきかについて、実務の視点から解説します。


2 なぜ境内地が公有地となっているのか

境内地が公有地である背景には、主に次のような歴史的・制度的事情があります。

  • 明治期の上知令(社寺領上知令)や地租改正、社寺領整理による国有地化

  • 戦後の農地改革・財産処分の影響

  • 道路・河川・水路などの公共用地がそのまま境内として利用されてきた

  • 登記未了や測量未実施による境界不明確な状態の継続

その結果、使用実態は宗教法人、所有名義は国・自治体という状態が長期間放置されていることがあります。


3 公有地を境内として使用し続ける法的リスク

境内地が公有地である場合、次のようなリスクが生じます。

(1)取得時効が成立しない

国や地方公共団体の所有する公有地については、原則として取得時効は成立しません(民法162条、地方自治法等の解釈)。
「何十年も使っているから自分の土地」という主張は公有地については通用しない場合がある点に注意が必要です。

 取得時効における「他人の物」とは、国や市町村など公共団体が所有する物も含まれます。

 もっとも、公有地についてはその公的な性質上、「黙示的な公用廃止」が必要です。

 「長年にわたり当該埋立地が事実上公の目的に使用されることもなく放置され、公共用財産としての形態、機能を完全に喪失し、その上に他人の平穏かつ公然の占有が継続したが、そのため実際上公の目的が害されるようなこともなく、これを公共用財産として維持すべき理由がなくなった場合には…黙示的に公用が廃止された」として、公有地が取得時効の対象になると考えられています(最判平成17年12月16日参照)。

 なおここでいう「黙示の公用の廃止」は、占有開始時点で認められる必要があるとされています。

(2)無権原使用と評価される可能性

契約や許可なく使用している場合、法的には無権原占有と評価され、

  • 明渡し請求

  • 使用料相当額の請求
    を受ける可能性が(潜在的には)あります。

(3)建物・工作物の存続リスク

本堂、社務所、参道、鳥居、墓地、納骨堂等が公有地上にある場合、

  • 建替えや増改築が認められない

  • 除却を求められる
    といった深刻な問題に発展することもあります。


4 まず行うべき初期対応

境内地が公有地である可能性がある場合、最初に行うべき対応は次のとおりです。

(1)登記・公図・地積測量図の確認

  • 土地登記事項証明書

  • 公図

  • 地積測量図

を取得し、どこまでが誰の所有かを正確に把握します。

(2)使用実態の整理

  • いつから使用しているのか

  • どのような施設があるのか

  • 独占的使用か、一般供用か

といった点を整理しておくことが重要です。


5 考えられる具体的な対応策

境内地が公有地であることが判明した場合、次のような対応が考えられます。

(1)使用許可・貸付契約の締結

最も現実的な方法が、

  • 行政財産使用許可

  • 普通財産の貸付契約

を正式に取得することです。
これにより、使用の適法性が確保され、将来のトラブルを防止できます。

(2)払い下げ(売却)の検討

当該土地が行政目的に使用されていない場合、

  • 普通財産への用途変更

  • 随意契約による売却

が可能となるケースもあります。ただし、

  • 公共性

  • 周辺住民との関係

  • 自治体の財産処分方針

などのハードルがある点には留意が必要です。

(3)境界確定・分筆による整理

境内地と公有地が混在している場合には、

  • 境界確定協議

  • 分筆登記

により、問題部分を可視化したうえで対応することが有効です。


6 宗教法人特有の注意点

宗教法人の場合、次の点にも注意が必要です。

  • 責任役員会の決議が必要となる場合がある

  • 規則上の財産処分制限との関係

  • 境内地性(宗教活動との不可分性)の主張可能性

特に、境内地は宗教活動の基盤であるため、単なる不動産問題として処理しない視点が重要です。


7 早期の専門家相談が重要

公有地問題は、

  • 不動産法

  • 行政法

  • 宗教法人法

が交錯する分野であり、対応を誤ると宗教活動そのものに支障を来しかねません。
行政との交渉も含め、早期に弁護士等の専門家へ相談することが、最終的な負担を最小限に抑える近道となります。


8 おわりに

境内地が公有地であるという問題は、過去の経緯に起因することが多く、宗教法人側に責任がないケースも少なくありません。しかし、現状を放置すればリスクは将来化・顕在化します。

早めの対応をおすすめします。

弁護士法人長野第一法律事務所では、宗教法人のご相談に対応しています。お気軽にご相談ください。

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