ブログ

不祥事発生時における第三者委員会~公正・中立な調査のために~

今回も、前回に引き続き、企業向けの投稿として、不祥事に対する対応について説明します。

 前回は、不祥事発生時早期における社内調査を説明しましたが、今回は、より中立性・公正さを求められる第三者委員会について、日弁連が作成した「企業不祥事における第三者委員会ガイドライン」(以下「ガイドライン」といいます。)に即して説明します。

 

1 第三者委員会設置の目的

  そもそも何のために第三者委員会を設置すると思いますか?この目的を理解していないと、第三者委員会は形骸化した存在になります。

   ガイドラインでは、以下の目的で設置することとしています。

① 説明責任を果たす目的

  企業の不祥事は、顧客や出資者、取引先といった利害関係者への影響を生 じさせるものとなります。企業がこれらの利害関係者の存在で成り立っていることを考えると、企業にはこれらの利害関係者に対する社会的責任として、説明責任を果たす必要があります。

この説明責任を実現するため、第三者委員会が設置されます。

② 再発防止を図る目的

  第三者委員会を設置するもう一つの目的は、不祥事に対する再発防止策の提言です。

  このため、企業経営に対する意見具申や、関係者の法的責任を追及するための委員会ではないという点に注意が必要となります。

2 独立性確保のために

  第三者委員会が先に述べた目的を実現するためには、企業から独立した“第三者”として活動する必要があります。

  もっとも、第三者委員会のメンバーである弁護士や公認会計士は、企業の委任を受けて業務を行うため、依頼者である経営者と対立する調査を行うことが通常困難になってしまいます。

  そこで、独立性確保のために、以下の制度を設ける必要があります。

① 起案権の専属

  調査報告書を作成できるのは第三者委員会のみであり、かつ第三者委員会は他の機関の関与無く、調査報告書を作成できる必要があります。

  他の機関の関与により内容が歪められることを防止するための定めです。

② 調査報告書の記載内容

  調査によって判明した事実や評価が経営陣にとって、不利な内容であっても、調査報告書に記載する必要があります。

③ 調査報告書の事前非開示

  調査報告書は、提出前に全部又は一部を企業に開示してはいけません。

 企業の意見により内容が歪められることを防止し、また、隠蔽等を防ぐためです。

④ 資料等の処分権の専有

  第三者委員会が調査の過程で収集した資料を処分する権利は、第三者委員会のみに帰属させる必要があります。

 他機関により資料の処分が行われると、調査への支障や証拠の破壊につながるからです。

⑤ 利害関係委員の排除

  中立性を確保するためには、調査委任を受けているという点以外の利害関係が無い必要があります。

  具体的には、弁護士をメンバーに入れる場合では、顧問料を得ている顧問弁護士は利害関係があるものとして扱われます。

3 企業協力の必要性

  第三者委員会の調査は、警察の捜査と異なり、任意の調査に限られます。このため、企業側の協力が必要不可欠になります。

 このため、企業の役員には、「真相究明への協力こそが企業が危機的状況から脱するために最優先の職務である」という自覚を持ってもらう必要があります。

また、制度の上でも、①第三者委員会に対して、資料や情報、従業員へのアクセス権を保障すること、②従業員に対して、第三者委員会への優先的な協力を業務命令とすること、③必要があれば第三者委員会への事務要員を確保するとともに、同事務要員から企業への情報流出を遮断する体制をとることといった、配慮が必要になります。

 さらに、協力が得られない場合は、第三者委員会は、その旨、妨害があった旨などを調査報告書に明記する必要があります。

4 文書化

  上記の制度は、いずれも法律上の定めなどに基づくものではないので、実現するためには、企業と第三者委員会との間で、合意をする必要があります。そして、合意内容を明確にするために、文書を作成し、各制度内容を明記する必要があります。

5 公的機関との連携

  第三者委員会の調査は、不祥事に対して行われるものであり、多くの場合監督官庁の捜査や調査が並行して行われることになります。

  この際に、両者の捜査や調査が他者への制約にならないよう、第三者委員会は、公的機関との連携を行う必要があります。

6 調査の手法

  以上のように第三者委員会を設立すると、今度は第三者委員会の調査になります。

  第三者委員会の調査には、以下の方法が取られますので、企業側もこれらの調査が行われることを前提に、第三者委員会の調査に協力できる体制の構築が必要です。

 ① 関係者に対するヒアリング

   社内調査でも行われる調査の基本です。

 ② 書証の検証

   帳簿や記録(電子データを含む)を確認することも調査の基本です。

 ③ 証拠保全

   調査の対象や事後検証のためにも第三者委員会で記録を保存する必要があります。企業側も証拠破壊等に対する懲戒処分の明示などを行い、証拠破壊を防ぐ体制構築が必要になります。

 ④ 統制環境の調査

   社内の指揮命令の状況、コンプライアンス意識についても、再発防止のために調査する必要があります。

   具体的には、従業員を対象としてアンケートが有益なので、積極的に活用することも手であるといえます。

 ⑤ 自主申告者に対する処置

   従業員や役員が第三者委員会に自主的に申告できる制度の設置も重要になります。具体的には、従業員等が自主的に申告した場合に、懲戒処分を減免できる規定を設けることなどが考えられます。

 ⑥ 第三者委員会専用のホットライン

   従業員等の申告が困難であると予想される場合は、秘密保持の上、第三者委員会専用の申告先を設けることも有益な手段となります。

 ⑦ デジタル調査

   上記②や③とも重複しますが、最近では紙の書類を残さないことも多くあります。また、データは比較的容易に削除される可能性があります。

このため、第三者委員会は、デジタル調査の専門家に委託することも検討する必要があります。

7 今回の記事は以上になります。第三者委員会の調査は、社内調査とは異なり、その独立性が重視されるとともに、企業側の協力も不可欠なものとなります。

 第三者委員会による公正かつ中立な調査は、企業自体にとっては有益なものですので、敵対視せず、協力する意識と体制の拡充に努める必要があります。

 

 企業不祥事の未然防止から、社内調査、そして、第三者委員会の設立に関してお悩みの方は、相談に対応しますので、是非長野第一法律事務所にご相談ください。

一覧ページへ戻る