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いわゆる過労死ラインに届かなければ労災は認められない?

いわゆる過労死ラインに届かなければ労災は認められない?

 

 長時間労働が続くと、心身には大きなストレスがかかります。これにより、脳や心臓に疾患が発生したり、うつ病などの精神疾患を発症したりすることがあります。長時間労働が原因で労働者が死亡に至るようなケースもしばしば見られます。

長時間労働によって労働者が死亡したと言えるか否か、つまり労働者の死亡が労働災害であるか否かの判断基準として「過労死ライン」という言葉がよく用いられます。では、「過労死ライン」に届いていなければ、長時間労働が原因となって死亡したとは認められないのでしょうか。

 

1 過労死ラインの根拠とされるもの

 過労死ラインは、厚生労働省により策定された「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」において、「発症前2か月間ないし6か月にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる」などと定められていることに由来しています。

 また、同じく策定された「心理的負荷による精神障害の認定基準」においては、時間外労働が「1か月におおむね80時間以上」のときは労働者に与える心理的負荷は中程度、「発病直前の連続した2か月間に、1月当たりおおむね120時間以上」などのときは強程度とされています。

 要するに、仕事が原因となって死亡したか否かの判断に当たり、時間外労働時間数は重要な考慮要素になっていますが、その時間数はあくまで「おおむね」とされています、したがって、基準となる時間数を超えていなければ長時間労働が労働者の死亡の原因とは認められない、ということはありません。

 

2 時間外労働数に関わる裁判所の判断

 時間外動労時間数と労災認定基準の関係に関する直近の判例として、最高裁令和7年3月7日判決が挙げられます。なお、この判例は公務員の労働災害についてのものであるところ、公務員の労働災害については、先ほどご説明した認定基準とは別の基準が用いられることに留意してください。

 この判例の事案では、公務員である労働者が自死しており、その直前の6か月間における時間外労働時間は、順に117時間45分、56時間8分、69時間30分、98時間30分、96時間30分、25時間でした。これらの時間数だけでは、公務災害が認められる基準となる時間数には届いていませんでした。

 しかし、裁判所は、労働者の自死は業務に起因するものと判断しました。裁判所は理由として、自死1か月前の時間外労働時間数がその前月から倍増しており業務量が大きく増加していたこと、自死前1か月間に14日間の連続勤務が2回あって連続勤務期間中の拘束時間も長時間にわたること、仕事のほかに自死に至るような事情がないことを挙げています。

 この裁判所の判断からも、時間外労働時間数は絶対的な基準ではないことが分かります。

 

 

 弁護士法人長野第一法律事務所には、過労死問題に取り組む弁護士が複数在籍しております。過労死・過労自殺の問題でお困りの場合は、ぜひ当事務所へご相談ください。

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