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宗教法人法の基礎と実務上のポイント(2)宗教法人法の歴史と改正経過、近年の動向について
宗教法人法の歴史的経緯と改正経緯、最近の動向
以下は宗教法人法(昭和26年法)の歴史的経緯、主な改正点、近年の法的・運用上の潮流を、実務担当者が押さえておくべき点に絞って整理したものです。
1) 成立と沿革
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戦前には「宗教団体法」(昭和14年)があり、国家的統制色が強い制度でしたが、戦後の占領政策で廃止・整理され、暫定措置(宗教法人令)を経て、1951年(昭和26年)に現行の宗教法人法が公布・施行されました。現在の宗教法人法制の枠組みは、ここから出発しています。
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その後、宗教法人法は、社会変化に合わせ何度か改正が行われていますが、特に大きく運用に影響したのが1996年の法改正(オウム真理教事件を契機とした法改正)で、全国的に展開する法人の所轄を文部科学大臣に位置づける等、監督強化と情報公開(役員・会計書類の作成・閲覧等)制度が導入されました。
2) 近年の主要な動き
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ガバナンスと透明性の強化
1996年の改正以降、役員名簿・収支計算書・財産目録の作成・備え付けや所轄庁への報告等が制度化され、運用面での透明性要求が高まっています。これが近年の社会的要請(説明責任)と相まって、内部規程整備や外部監査の導入検討が進んでいます。 -
寄附勧誘・消費者保護の法令化(民事的リスクの増加)
近年、法人等による寄附の不当な勧誘を防止する新たな法律(法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律)が成立・施行され、宗教法人もその対象になります。過度の献金強要や借入を伴う募金等に対して、民事上の取消・返還請求や行政的な対応の可能性が高まっています。法務担当者は、このような不当寄附勧誘に関する法制や判例についての理解を基に、寄附プロセスの記録・同意取得・勧誘方法の統制を再点検すべきといえます。 -
刑法改正・欠格規定の整合(役員要件の調整)
刑罰体系の見直し(「拘禁刑」等)に伴い宗教法人法上の役員欠格事由なども調整されています。たとえば懲役・禁錮に相当する刑罰概念の変化に合わせ所定の欠格事由の文言が更新される等、役員選任時のチェック項目に変更が生じています。文化庁のガイドラインも改訂されているため、選任手続き・履歴管理を整備しておく必要があります。 -
課税・地方税の実務的争点の顕在化
境内地における宗教行為と商業・非宗教行為の混在部分の課税判断(固定資産税等)に関する判例・実務的検討点が増えています。施設の貸付、店舗営業、イベント等を行う場合には事前に用途区分・帳簿整備を行わないと地方税上の課税対象になりうる点が重要です。
3) 実務担当者が今すぐ確認すべきチェックリスト
あなたの法人では、以下の点への対応ができていますか。
宗教法人といえども、法務をおろそかにすることはできません。
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役員・重要人事の適格性確認(欠格事由・犯罪歴確認のための書類整備)。
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収支計算書・財産目録・役員名簿の作成・備え付け・所轄庁提出の現状確認と保管場所の明示。
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寄附勧誘の同意取得・記録保存体制(口頭勧誘の録音/記録や書面の整備、強要を防ぐ内部ガイドラインの制定など)。
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境内地の用途区分と税務(非宗教的利用がある場合の課税リスク判定と税務相談)。
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危機管理と対応フロー(不祥事発生時の所轄庁対応、広報、顧問弁護士等の専門職への連絡先等の明確化)。