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宗教法人法の基礎と実務上のポイント(3)宗教法人法における機関構成と責任役員会の実務
今回は、宗教法人の「機関」についての記事です。
宗教法人法が、他の法人関連法と大きく異なる特徴の1つに、責任役員や責任役員会の存在があります。
「代表役員であれば何でもできる」と誤解されていることもあるようですが、宗教法人法の「機関」についての正確な理解を踏まえて、運営することが必要です。
1 宗教法人法における「機関」とは
宗教法人法は、宗教団体に法人格を付与し、教義や信仰の自由を尊重しつつも、財産管理などの世俗的な側面に一定の法的枠組みを与えることを目的としています。その中核となるのが、第10条以下に規定される宗教法人の機関制度です。
宗教法人の機関には、主に以下の3つがあります。
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代表役員(第10条)
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責任役員(第11条)
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責任役員会(第12条)
このうち、代表役員が法人を代表して外部的行為(契約・登記・訴訟など)を行うのに対し、責任役員会は法人内部における意思決定機関として位置付けられています。株式会社でいえば「取締役会」に近い役割を担いますが、その権限は宗教法人法および法人の規則によって定められます。
2 代表役員と責任役員の関係
代表役員は、宗教法人の「代表者」として、法人の業務を統括する存在です。一般には、教団の主宰者(住職、宮司、牧師など)が務めます。
一方、責任役員は、宗教法人の財産・会計その他の業務を監督し、重要事項を決定する役割を持つ「理事的立場」の構成員です。宗教法人法第11条第1項により、法人は3人以上の責任役員を置くことが義務付けられています。
責任役員の選任・解任手続きは、宗教法人の規則(法人内部の根本的なルール)によって定められます。実務では、宗教上の位階や地域代表などを基準として選出するケースも多く見られます。また、包括宗教法人に一定の権限が定められていることもあります。
3 責任役員会の法的位置づけと権限
宗教法人法第12条は、責任役員会について以下のように定めています。
宗教法人には、責任役員会を置かなければならない。
責任役員会は、責任役員をもって組織する。
責任役員会は、規則で定めるところにより、宗教法人の業務のうち重要な事項を審議し、決議する。
すなわち、責任役員会は、宗教法人の意思決定の中心として、主として次のような事項を決定します(以下は典型例)。
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財産の取得・処分(不動産売買・寄附など)
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予算・決算の承認
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規則(法人内部規程)の変更
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代表役員の選任・解任
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法人の合併、解散等の重要事項
代表役員が業務執行の中心であるのに対し、責任役員会はその方針を承認し、適正な運営を担保するチェック機能を果たします。
4 責任役員会の運営実務
(1)招集と議長
責任役員会の招集権者や議長は、規則で定めるのが原則です。多くの法人では代表役員が議長を務めますが、代表役員が関係当事者である案件(自己契約や利益相反行為など)の場合は、別の責任役員を臨時議長とする規定を設けておくことが望ましいでしょう。
(2)定足数と議決要件
法令上は特段の規定がありませんが、一般的には「責任役員の過半数の出席により会議を開き、出席者の過半数で決議」とする例が多いです。
また、重要事項(不動産処分など)については、「出席責任役員の3分の2以上の賛成」を要件とするなど、議決要件を重く設定することも実務上有効です。
(3)議事録の作成
宗教法人法第25条第1項は、責任役員会の議事録を作成・保存する義務を定めています。
議事録は、登記や行政手続きの際に提出を求められることも多く、**署名押印・保存年限(通常は10年)**の管理が極めて重要です。
不動産登記(所有権移転や担保設定)を行う場合には、議事録の写しを法務局に提出する必要がある点にも注意してください。
5 責任役員の法的責任と注意点
責任役員は、宗教法人の財産を管理・運用する立場にあるため、次のような法的責任を負うことがあります。
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善管注意義務
法人の利益のために誠実に職務を遂行すべき義務です。 -
損害賠償責任
法令や規則に違反して法人に損害を与えた場合、個人責任を問われる可能性があります。 -
刑事責任(背任・業務上横領など)
宗教法人の財産を不正に処理した場合は、刑事責任を問われることもあります。
特に、代表役員が単独で不動産を処分したり、責任役員会の決議を経ずに寄附金を支出したりする事例は、トラブルの典型です。法務担当者は、「責任役員会決議を経たか」を常に確認するチェック体制を整える必要があります。
6 近年の動向と実務課題
近年は、宗教法人を巡るガバナンス(内部統治)の重要性が高まっています。社会的注目を浴びた法人では、責任役員会の実質的機能が形骸化していたことが指摘されました。
これを受け、文部科学省も「宗教法人運営の透明化」を促す通知を出し、責任役員会の活性化や議事録整備の徹底を求めています。
また、宗教法人独特の要素として、「信者・檀家・氏子などの意見」をどのように聴取し、それを法人運営に反映させるかという点も大変重要な課題です。責任役員会の公開性を高め、外部監査や会計士の助言を受けるなど、自主的なガバナンス強化の取組みが今後ますます期待されます。
7 まとめ
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宗教法人の意思決定の中心は「責任役員会」である。
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財産処分や代表役員の選任など、重要事項は責任役員会の決議を経なければならない。
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議事録の作成・保存は法的にも実務的にも極めて重要。
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責任役員は善管注意義務を負い、違反すれば民事・刑事責任を問われ得る。
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今後はガバナンス強化と透明性向上が求められる。
責任役員会を形式的な儀式に終わらせず、宗教法人の信頼を支える健全な意思決定機関として機能させることが、宗教法人の法務担当者に求められているといえるでしょう。