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贈与による財産取得の時期 ―名古屋高裁平成10年12月25日判決を踏まえて―

1 問題の所在

贈与税は、「財産を取得した時」に課税されます(国税通則法15条2項5号)
しかし、実務上しばしば問題となるのが、具体的に「いつ財産を取得したといえるのか」という点です。

とりわけ不動産の贈与では、

  • 贈与契約(公正証書など)を作成した時点
  • 所有権移転登記を行った時点

のいずれを「取得時期」とみるかにより、課税関係が大きく変わることがあります。

この点について重要な示唆を与えるのが、名古屋高裁平成10年12月25日判決です。


2 基本的な考え方(相続税法実務)

まず、実務上の基本ルールを確認しておきます。

相続税法基本通達では、贈与による財産取得時期について、次のように整理されています。

  • 書面による贈与:契約の効力発生時
  • 書面によらない贈与:履行の時

もっとも、これだけでは不十分な場面があります。
特に不動産のように登記が伴う財産については、形式と実態が乖離することがあるためです。


3 名古屋高裁平成10年12月25日判決の事案

本件の概要は以下のとおりです。

  • 昭和60年、不動産贈与契約を公正証書で作成
  • しかし登記は行われず
  • 約8年後(平成5年)に所有権移転登記を実施
  • 税務署は「登記時」を贈与時期として課税

これに対し納税者は、
「公正証書作成時点で贈与は成立している」
と主張しました。


4 裁判所の判断

名古屋高裁は、納税者の主張を退け、次のように判断しました。

  • 登記が長期間行われなかったことに合理的理由がない
  • 形式的な契約書のみでは、直ちに贈与の実質を認められない
  • 実質的には、登記時に贈与の効力が発生したとみるべき

その結果、所有権移転登記時を贈与の時期と認定しました。


5 判例のポイント(実務的整理)

この判決の重要なポイントは、次の2点に集約されます。

(1)形式よりも実質を重視

単に公正証書が存在するだけでは足りず、
「実際に権利移転があったか」が重視されます。

(2)登記の有無・時期が強い指標となる

特に不動産の場合、

  • 登記がされていない
  • 長期間放置されている

といった事情があると、
「贈与は未了」と評価されやすくなります。

実務上も、贈与時期が不明確な場合には登記時を基準とするという取扱いが一般的です。

なぜこの点がシビアな問題になるかというと、贈与税には除斥期間があり(相続税法36条1項。6年)、この事案のように、契約時を基準とすると

登記名義の移転を意図的に遅らせることで、簡単に贈与税を逃れることができてしまうからです。


6 実務への影響

この判例は、特に以下の場面で重要です。

① 時効(除斥期間)対策としての「形式的贈与」

過去に遡らせるためだけの契約書は否認され得る。

② 親族間贈与

実態が曖昧になりやすく、課税リスクが高い。

③ 名義預金・名義不動産との関係

「名義」と「実質」の乖離は、課税上厳しく判断される。


7 まとめ

名古屋高裁平成10年12月25日判決は、次の教訓を示しています。

  • 贈与の時期は形式(契約書の作成)だけで決まらない
  • 実質的な権利移転が重視される
  • 不動産については登記の時期が極めて重要

とりわけ税務実務では、
「契約を作るだけでは足りず、実行が伴っているか」
が決定的に重要です。

贈与を検討する際には、契約書の整備にとどまらず、
登記・引渡し・管理状況まで含めて一体として設計する必要があります。

 

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