ブログ

相続税と養子縁組

1 相続税における基礎控除制度の1つに「法定相続人の数×600万円」というものがあります。

 これは,相続税の課税においては3000万円という基本的な基礎控除に加えて,相続人の数に応じた控除枠を設けて,相続税の負担が過大にならないようにするためのものです。
 例えば,Aさんには,配偶者のBと子どものC,Dがいるとして,Aさんが亡くなった場合の相続税については,

  3000万円+(600万円×3人)=4800万円

までは相続税がかからないということです。

2 ところで,養子も法律上「法定相続人」になりますので,養子をたくさん増やせば控除額が増えるということになりそうです。
 例えば,親戚にお願いして10人と養子縁組をすれば上記の例については,3000万円+(600万円×13人=7800万円)=1億0800万円もの基礎控除になるのでしょうか?

 このように養子縁組制度が濫用されると,ずる賢い人が不当に相続税を免れてしまうことになりますよね。ですので,養子縁組の数自体には制限はありませんが,相続税の計算上は,養子による基礎控除には制限があります。税務署はそんなに甘くはありません。

(1)当該被相続人に実子がある場合又は実子がなく,養子の数が1人である場合・・・1人まで
(2)当該被相続人に実子がなく,養子の数が2人以上である場合・・・・2人まで


 但し,上記の扱いは,不当な相続税の回避を防止するためのものですから,特別養子縁組の場合やいわゆる連れ子養子のような場合には,「実子」として扱われることになります。

※なお,上記のような養子の算入制限を適用してもなお,相続税の負担を不当に減少させると判断される場合には,「税務署長による否認」(相続税法63条)という規定によって,養子としての扱いが否定されることがあります。
 
3 もっぱら相続税の節税を目的とした養子縁組は無効か?

 相続税を節税するために養子縁組をすることは,本来の養子縁組の趣旨とは違っているようにおもいます。そのため,そのような節税目的の養子縁組自体が無効(民法上の無効)ではないかとして争われた事案があります。

 最高裁(最判平成29年1月31日)は,このような節税目的の養子縁組については,もっぱら節税目的という動機があるとしてもそのことで直ちに養子縁組の意思が否定されることにはならない,として,その事案の養子縁組を無効とは判断しませんでした。ただし,事案によっては,「養子縁組をする意思がない」として無効とされる余地はある判旨となっています。

一覧ページへ戻る