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供述調書は後で修正することができるのか(刑事事件)

 捜査機関から取調べを受けると、話した内容が供述調書に纏められます。

 供述調書には、話した内容が一言一句記載されるわけではありません。捜査機関が作成した文章が、供述人が話したかのようなスタイルで記載されます。

 そうしますと、供述人が意図したニュアンスなどが供述調書に記載されないことや、話したかった内容とズレが生じることもあります。例えば、「はっきり記憶がないけれどもこのような事実があったと思う」と話した内容が、「このような事実がありました」と供述調書に記載されることもしばしば見受けられます。

 このようなときに、ニュアンスが違う、あるいは、言いたいことと違う、と捜査機関に伝えたにもかかわらず、「違う部分は裁判の時に訂正すれば良い」などと言われ、違和感を抱きながらもサインをして印鑑を押してしまった、という話をしばしば聞きます。

 では、供述調書の内容は後から直せるのでしょうか。

 

1 被告人が話した内容

(1) 被告人が話した内容を纏めた供述調書のうち、被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであれば、その供述調書はそのまま裁判の証拠とされます(刑事訴訟法322条1項)。

そのため、捜査段階で自分に不利な事実を認める内容の供述調書が作成されてしまった場合、それを裁判の場で訂正しようとしたとしても、基本的に訂正は認められません。

(2) 訂正が認められるのは、その供述調書が「強制、拷問又は脅迫」によって作成されたときなど、被告人が自らの意思に従って自由に(この状態を法律では「任意」と言っています)話をすることができない状態で作成された場合に限られます(刑事訴訟法319条1項、同法322条1項但書)。

  被告人が任意に供述したことを証明する責任は検察官にあるとされています。そうすると、被告人が任意性を争えば、供述調書の内容を訂正することは簡単だとも思えます。

  しかし、実際には、まず被告人が任意性を争う具体的事実を主張または立証させ、その具体的事実が任意性に影響を及ぼすと考えられる場合に、検察官が立証を要する、と考えられています。つまり、任意性を争う場合、任意性がないという事情を被告人が立証する必要があります。

 ところが、供述調書は密室で作成されるものですから、その作成の経緯に関する具体的な事実を客観的に証明する証拠は残っていないことがほとんどです。したがって、被告人が任意性を争う具体的事実を主張立証することにはかなり高いハードルがあります。そのため、裁判の場で供述調書の内容を訂正することは相当困難です。

(3) このように、被告人が話した内容を纏めた供述調書を裁判の場で訂正することは極めて困難ですから、安易に調書の作成に応じてはいけません。

  少しでも言いたいことと違う点がある場合は、その訂正や削除を求めることが不可欠です。

 

2 被告人以外の方が話した内容

 被告人以外の方(ここからは第三者と言います)が話した内容を纏めた供述調書のうち、検察官が作成したものであり、供述者が「公判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異なった供述をしたとき」は裁判の証拠とすることができる、とされています(刑事訴訟法321条1項2号)。

  要するに、検察官の前で話した内容と裁判の場で話した内容に齟齬があるときは、供述証拠は証拠とされる、ということです。

  捜査段階で話した内容を裁判の場で訂正しようとすると、供述証拠が証拠として採用されることになり、供述調書と裁判の場での話のどちらが信用できるか、という話になっていきます。

  したがって、被告人以外の方であっても、裁判の場で供述調書の内容を訂正することは容易ではありません。

 

3 結論

  以上でご説明しましたように、被告人でも、被告人以外の方でも、捜査段階で作成されてしまった供述調書の内容を訂正することは困難です。

        供述調書の内容をよく確認し、少しでも違うところやニュアンスが違うところがあれば訂正を求めてください。

   訂正に応じてもらえない場合は、サインはせず、ハンコも押さないでください。

   捜査機関からサインや押印をするように説得されたとしても、裁判の場で捜査機関が責任を取ってくれるわけでもありません。

 

 

 捜査機関は、逮捕直後や取調べの早い段階で供述調書を作成してしまおうとします。そのため、以上のような点を踏まえ、早い段階で弁護士が的確な助言をすることで、不用意な内容の供述調書が作成されることを防ぐ必要があります。

 この点で、弁護士が早い段階から関与する大きなメリットがあります。

 家族が逮捕されてしまった、あるいは、参考人として捜査機関に呼ばれている、というような場合は、ぜひお早めに長野第一法律事務所へご相談ください。

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