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著作権侵害の書籍を出版した出版社の責任

著作権侵害(例えば、無断転載や無断複製。いわゆる剽窃、パクリ。)の書籍の作者が、著作権侵害の責任を負うことは当然ですが、その書籍を出版した出版社も著作権侵害の責任を問われるのでしょうか?

 その点が問題となったのが東京地判平成7年5月31日(ぐうたら健康法事件)です。

1  事案
 A医師が出版した書籍Xが、テーマが共通する書籍の著作者B医師の著作物Yの複製であるとして、B医師がA医師と、書籍Xの出版社Cに対し、損害賠償請等を請求した事件。
 裁判所の事実認定によれば、①書籍Xは、著作物Yの半分弱の長さであった、②書籍中の項目のタイトルや、名称が同一ないし極めて類似していた、③書籍Xの項目の内容となる本文が、著作物Yの本文から見いだせないものがほとんどない、④論を進める順序がほぼ同一である、⑤類似の表現、言い回しが多くある、⑥相違点が微細なものであるといった事実があった。

2 
(1)裁判所は、まず、書籍Xは著作物Yに依拠して作られた複製物であると判断しA医師の行為はB医師の著作権、著作者人格権を侵害したものと判断しました。

(2)続けて、出版社Cの責任については、以下の通り判示して、責任を否定しました。
 ア 書籍Xの出版までの間、A医師は、C社に著作物Yを利用したことを話したり、そのコピーを交付しておらず、C社としては、書籍Xが著作物Y、著作者Bの著作権や著作者人格権を侵害することは知らなかった
 イ C社が、地方の小出版社であること
 ウ A医師が、当該都道府県では、有名な医師であったこと
 エ ア~ウなどからすると、C社において、A医師の原稿が第三者の著作権を侵害するかどうかを調査するために、あらかじめ広く一般の雑誌記事にまで目を通して調査する義務があるとまではいえない

3 裁判所は、出版社の責任を判断する上で、上記2のような事実を重視して、出版社の過失を判断することがわかります。
 イのように、出版社の経営規模を考慮しているところが注目されます。逆に言うと、規模の大きな出版社であればそれなりの調査義務が課されることもあるという含みを感じます。
 また、ウのように「当該書籍の作者の信頼性」も考慮されています。専門職として一般に信頼性の高い人の文章については、出版社が著作権侵害がないだろうと信頼してもやむを得ないという意味でしょうか。これは、おそらく医師のような専門職の場合、同テーマの出版物の存在やその記載内容についてある程度高度の知識があり、当該作者はそれを踏まえて文章を書いている(著作権侵害にならないように書いている)のであろうから、出版社としてはそこを信頼するのは仕方がないということでしょう。

4 この裁判例には、批判的な見解もあり、また出版社に一般的な調査義務を課すかのような判示をする裁判例もあります(例えば、書籍のイラストが第三者の著作権を侵害していた事案の東京地判平成16年6月25日(LEC事件))。

 しかし、出版社に広く調査義務を課すという過酷な責任を負担させると、出版が困難となり、またそのコストが、出版物の価格に転嫁されることとなり、需要者である国民が多様な書籍を安価に手に取ることに支障が出るおそれがあります。
 この裁判例のように、出版社の責任については限定的に判断するのが相当であると思います。

(一由)

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