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共同親権法案について

 

 共同親権に関して、以前『子どもに関する近時のトピック② 共同親権』で触れましたが、今回、提出法案を踏まえて、ご説明いたします。

 

1 現在の流れ

  令和6年3月8日に衆議院に法案が提出され、同年4月12日に衆議院法務委員会にて、修正の上可決されました。

  委員会で可決した以上、おそらく15日、16日には、衆議院本会議でも可決されると思われます。

 

2 提出された法案の概要(共同親権に関する箇所)

  提出法案は、以下のような内容となっています。

 ① 協議離婚後の親権者に関する定めに関して、共同親権を選択肢に入れられるようにする。

 ② 裁判上の離婚の際は、裁判所は共同親権を定めることができるようになる。

 ③ 離婚の際、親権者を決める(共同親権にするかしないかを含む)協議が整わなければ裁判所で判断する。

 ④ DVや虐待が疑われる場合、共同親権の行使が困難な場合は、③の判断の際単独親権とする。

 ⑤ 親権の行使は、共同して行うことが原則であるが、

   ア 一方のみが親権者の場合

   イ 他の一方が親権を行使できない場合

   ウ 子の利益のため急迫の事情がある場合

  は、単独行使が可能であるとする。

   また、

   エ 監護及び教育に関する日常の行為に係る親権の行使

  については、単独行使が可能であるとする。

 ⑥ 父母の協議が整わない時であり、かつ子の利益のために必要があると認めるときは、家庭裁判所が単独行使できる旨を定められるとする。

 ⑦ 共同親権の規定は、法律施行前に生じた離婚の場合にも適用される。

 ⑧ 政府は、施行日までに協議離婚の際の親権者の定めに関し、真意によるものであることを確認する措置を検討し、必要な措置を講じる(委員会修正)。

 

3 改正法が施行されるとどのようになるか

  上記改正法が施行されると、現行法から以下のような事由が生じます。

 ① 離婚時に共同親権を選択できるようになる。

 ② 共同親権の行使が難しい場合(DV、虐待、その他の場合)、裁判所は単独親権とする。

 ③ 共同親権の場合であっても、

A 子の利益のため急迫の事情がある場合、

  または、

B 監護及び教育に関する日常の行為に係る親権の行使

  については、親権の単独行使を可能とする。

 ということになります。

 

4 改正法に関する雑感

  ここから先は、実際に施行されていないので、100%私(弁護士和手)個人の主観で記載します。

  まず、本改正法は、非常に中途半端な法律だと思います。“親権者”という肩書が無ければ、“親”ではないという思想をお持ちの方には、ある程度意味のある改正かもしれません。

  しかし、①共同親権行使が困難な場合に、単独親権と裁判所が判断する以上、紛争事案では、共同親権は見込めず、推進派の希望は通らないことが予想されること、他方、②DV被害者などが相手方から逃げるために共同親権を認めてしまった場合のケアが何もなく(一応真意によるものであることを確認する措置という非常にふわふわな附則条項はありますが・・・)、反対派の希望も通っていないこと、③居所の指定(822条)というある意味一番関心のある事項に関して、原則・例外の定めがなく、争いになった場合、結局家庭裁判所だのみなこと・・・など、問題が山積しています。

  そもそも、従前の面会交流や親権停止の審判といった家庭裁判所管轄の制度に問題があるから新制度を導入するのに、家庭裁判所に結局は丸投げするというのは理解しがたい印象を受けます。また、家庭裁判所が従前の制度において不十分な対応だったのは、家庭裁判所の慢性的な人手不足(昨年の人権大会のテーマでした!)※1、※2によると思われますが、新たな仕事を投げれば、今以上に遅滞するか不十分な審理になることは目に見えています。

※1 家庭裁判所の調査官は、子どもの心理の専門家ですが、そのような専門家が野生にわらわらいるということはありません。

※2 司法試験合格者が増えても裁判官は一向に増えませんね。

 

  共同親権制度に関して、私個人は、不必要と考えていますが、採用するなら採用するで、諸外国で見られるような親の新しい生活を害してでも子どもの利益を最優先する制度設計が必要だと思います。しかし、この改正法を見るだけでは、ハーグ条約に従うためだけに作られたもので、現場丸投げの中途半端な法案にしか思えません。

 今後は、

① 共同親権にするか否かで離婚事件の紛争が長期化する

② 共同親権の行使に関して、具体的に決めようとすると離婚事件の紛争が長期化する

③ 共同親権の行使に関して、具体的に決めないと(決められないと)、行使の段階になって紛争が発生する

④ 共同親権行使によって、DVや虐待が生じる

⑤ ①~④によって、適切に親権行使がされず、また、紛争下に長く晒されることにより、子どもの利益が害される

 ということが生じると思います。

  ため息ばかりの法改正だと思います。

 

 長野第一法律事務所では、夫婦関係のトラブル、親子関係のトラブルに関し、相談を受け付けています。

 離婚、子どもの養育や親権に関して、最新の法改正にも対応していますので、お悩みの方は、所属弁護士が親身にご相談に対応しますので、お困りの方は、是非長野第一法律事務所にご相談ください。(和手)

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